
表は埋めた。で、次は何を?
業務の棚卸しは項目を埋めれば終わる作業だと思っていませんか?
作業自体は埋めれば終わるのですが、本来の目的はそこではないはずです。
業務を見えるようにして、無駄を省きたい・効率化したいのが本筋ではないでしょうか?
そこで、ただ項目を埋める前に決めておくことが2つあります。
まずは、動かす数字を1つに絞ること。
そして、聞くのではなく実際の画面を見ることです。
私は政令市の技術系公務員として6年間、工事の発注者側で記録と積算を扱ってきました。
いまはIT企業で、kintoneとRPAを使って業務を組み替える側にいます。
発注する側と作る側の両方で、書き出した記録が判断に使われない場面を見てきました。
- 棚卸しが書き出しただけで終わる理由
- フォーマットを埋める前に決める2つのこと
- 選んだ数字が記録されていなかったときの進め方
業務の棚卸しは、表を埋める作業ではない
業務の棚卸しは、いまある業務を書き出して整理することです。
ただ、書き出す前に決めていないと、一覧ができた時点で止まります。
解説の多くは「目的を先に決めましょう」と書いています。
ここに異論はありません。
引っかかるのは、目的が文のままで置かれることです。
「残業を減らす」「効率化する」は、目的を表す文です。
動かす数字ではありません。
数字がないと、手を打ったあとに効いたかどうかを判定できません。
中小機構の調査では、DXのビジョンや経営戦略、ロードマップを策定していない企業が66.0%でした。
すでにDXへ取り組んでいる企業に限っても、29.6%が未策定です。出典:中小機構「中小企業のDX推進に関する調査」(2025年調査・回答1,000社)
決める工程を飛ばして手を動かす形は、めずらしくありません。
棚卸しも同じ位置にあります。
決めること1|動かす数字を、1つだけ選ぶ
棚卸しを始める前に、動かす数字を1つ決めます。
複数を同時に追うと、何が効いたのかを言えなくなるためです。
3つの仕組みを同時に入れたとします。
3か月後、1つが改善して2つは変わりませんでした。
改善した1つは、仕組みの効果か、それとも季節の影響か。
変わらなかった2つは、効かなかったのか、別の要因に打ち消されたのか。
どちらも判定できません。
1つに絞る理由は、費用ではなく判定です。
判定できない結果からは、次の一手が決まりません。
- 頻度と時間を掛けて、値が大きい順に選ぶ
- 1回30分で月1回より、1回3分で1日20回を先に見る
- 掛け算の結果で決めて、声の大きさで順番を動かさない
基準は、頻度と時間の掛け算。
経営者と現場のどちらからも反論が出にくい形になります。
私が担当したコールセンターの案件では、1時間あたりの架電数を21.3から24.2へ改善しました。
kintoneのアプリを改修し、手で打ち込んでいた入力を減らした結果です。
ただ、同じ時期にオーダー件数を増やす施策も走っていました。
営業元の商談件数は増えましたが、どちらがどれだけ効いたかを分けて言うことはできません。
1つに絞る理由は、自分の実測にもそのまま当てはまりました。
決めること2|聞くのではなく実際の画面を見る
2つ目は、業務の集め方です。
担当者に口頭で説明してもらう方法から始めると、実態とずれた一覧ができあがります。
理由は1つです。
同じ業務を、人によって違うやり方で処理しているためです。
誰に聞くかで、違うフローが出てきます。
そしてどれも嘘ではありません。
その人にとっては、それが実際のやり方だからです。
整理されたフローを説明できる会社は、整理がすでに終わっています。
終わっていないから詰まっているわけで、説明を先に求めるのは、成果物を先に要求するのと同じことになります。
- 現場の人が実際に触っている画面を、そのまま見る
- 使っているExcelファイルの実物を開く
- 同じ情報を2回以上入力している箇所を探す
- 人が止まる瞬間を数える
現地へ足を運ぶ必要はありません。
私の経験では、システムや作業について現地でなければ分からないことは、ほとんどありませんでした。
画面共有でも観察は成立します。
現地で得られるのは、別のものです。
人の表情、声色、現場の雰囲気。
これらを読み取れるのは、人と話す場面です。
棚卸表には、止まっている時間が載らない
観察でいちばん効くのは、人が止まる瞬間です。
探している、待っている、迷っている、確認している。
この時間は、どの記録にも残りません。
探していた時間を「探していた」と報告する人はいません。
作業時間にも日報にも、その分は入ってこないままです。
本人も、止まったとは認識していないためです。
棚卸表の「所要時間」の欄に、この時間は現れません。
書き出しただけの一覧では見つからない種類の詰まり。
だから、観察でしか拾えません。
- 探している ── 情報の在り処が決まっていない
- 待っている ── 前工程との接続が切れている
- 迷っている ── 判断の基準が個人の中にある
- 確認している ── 前の工程の出力を信用していない
4つは、それぞれ別の詰まりを指しています。
同じ「止まる」でも、手を打つ場所が違います。
これは詰まりの型を分類したものではありません。
観察するときの切り口として置いています。
型として語れるほどの実施件数を、私はまだ持っていないためです。
架電の時刻をボタンで記録する仕組みを作ったときも、必要性は観察だけからは出ませんでした。
数字が場所を示し、観察が中身を示しています。
数字と観察は、片方だけでは足りません。
選んだ数字が、どこにも記録されていなかったら
棚卸しを進めると、選んだ数字がどこにも残っていないと判明することがあります。
中小企業では、これが最も多い状態だと私は考えています。
選ぶ数字を取りやすい方へ、選び直さない。
データが取れる指標に変えるのは、順序が逆になります。
取れないなら、取れるようにする工程が次に来ます。
それが見える化です。
見える化で具体的に何をするかは「業務の見える化とは、結局何をすることなのか」にまとめています。


- 直近で入れた仕組みについて、動かすつもりだった数字を挙げられるか
- その数字は、いまどこにあるか(システムか、Excelか、紙か、誰かの頭の中か)
- その数字は、いつ分かるか(リアルタイムか、月次か、締めてから2〜3週間後か)
3つ目で「締めてから2〜3週間後」という答えになるなら、判定が間に合いません。
効いたかどうかを確かめる前に、次の期が始まってしまうためです。
まとめ|今週、同じ業務を2人に説明してもらう
読み終えて最初にやることを、1つだけ挙げます。
同じ業務を、2人の担当者に別々に説明してもらってください。
違う説明が出てきたら、そこが観察の対象になります。
費用はかからず、数日で結果が出ます。
フォーマットを用意するのは、そのあとでも遅くありません。
どこで詰まっているかを先に見ておきたい場合は、9つの設問に答える診断を置いています。
